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立派な大人じゃないけれど

 どうして人は生きているのか、どうして生まれてくるのかを自分の子どもに
聞かれたとき答えられないほど不幸なことはない。
それを教えてあげることが親としての何よりの務めだと僕は感じている。
でも、子どものそんな素朴な疑問にさえも答えられない大人になって
しまったのも、また僕であった。

 僕の子どもは女の子で、そして母親はこの子生むときに他界してしまった。
僕は分娩室の前で泣いた。どこまでも深い悲しみの海の中に沈んでいった。
しかし、まるで救命胴衣のように僕を悲しみという深海から浮き上がらせて
くれたのはこの子だった。僕は何もかもを放棄してはいけないと思った。

 それから4年の月日が経過して、4歳になったこの子の質問に対して
僕は何も答えられないでいるのだ。それは深い問いで、ただ素朴な疑問なのだが、
成長するにつれてその疑問の解決は出来ないといつしか諦めてしまう難問でもあった。

 僕はいつもこの子に何を伝えたら良いのかわからずにいる。
この子は僕の何を見ているのだろうか。僕には分からなかった。
でも、心の奥をも見透かされるようなその純粋な濁りの無い瞳に
僕はいつも戸惑ってしまうのだ。
 僕がこの子に教えられることなど数少ないのだ。僕自身がこの
年齢になっても解決出来ない難問をぶつけられているのだから。

 子どもというのは純粋で、しかしながら残酷である。
大人になって誰もが解決できない人生最大の難問を何の悪気もなく聞いてくる。
その問いに答えられる自分がいるのだとしたら、僕は人生の中で愚かな選択を
しなかっただろう。でも、ただ子どもとしては純粋な疑問であって、
それが誰もがなかなか解を導き出すことが出来ない難問だとは知らずに、それを
純粋に知りたくて聞いてくるのだから僕は困ってしまうのだ。


 でも僕が最も困ってしまう問いは「ママは何故いないの」だった。
ある日の朝、娘は僕に聞いた。
「ママはどうしていないの」と無邪気に。
「それはね、ママは月からやってきたお姫様で月に帰らないといけなく
なったからなんだ」と僕はどこかで読んだような昔話に似た話をして誤魔化そうとした。
けれども子どもというのは頭が良くて直感的に、しかも論理的に的確な疑問を投げか
けてくるから僕は参ってしまう。

「パパ。嘘ばかりはだめ。つきにはひとはいないんだよ」
「ばれたか。その話はまた今度にして公園に遊びに行こう」 
「パパはどうしてママの事をおしえてくれないの」
 僕は娘を抱き上げると、「ごめん」と小さく囁いた。
娘はそれ以上は聞いてはいけないのだと察したのかもう何も言わなくなった。
そう、その朝から二度と「ママ」という言葉を口にしなくなった。

 明らかに気を使ってくれているのだ。この僕に。
僕は娘に何を教えてやればいいのだろうか。
実際にママは死んでしまったという事実を教えるべきなのだろうか。
それとも、このまま何も教えないままある年齢がきたら話せば良いのだろうか。
僕にはその的確な答えが全く思い浮かばなかった。

 僕は娘の素朴な疑問に何一つ答えてあげることができていなかった。
素朴な疑問に答えられない父親を娘はどんな瞳で見ているのだろうか。
何を感じているのだろうか。ごめんね情けないパパで。

 僕には何一つとして君に答えて上げられるほど多くのことを知っているわけではないんだ。
そう、君の素朴な疑問に答えを出せるほどの立派な大人ではないのだ。
本当にこんなパパでごめんね。

 でも、ひとつだけパパが君に教えられるのは、生きていく意味は
「自分で選択するものだよ」ということ。
きっと、それが一番辛いことなのだけれども、けれども自分で生きる
意味は選択していかなければならないし、それを見つけていかなければならないんだ。
僕はそれを君に示せるほどの立派な大人じゃなくてごめんね。僕はダメなパパだね。

 でもね、ただママが死んでしまったことは君に教えるよ。
それを乗り越える強さをパパは君からもらったから。

 きっと君にはママがいなくても上手にやっていけるし、生きていくことができるから。
僕は知っている。君の心の中には確実に幸福になる力があるということ。
僕は君の疑問には答えられないけれど、でもひとつだけなら教えてあげることが出来る。
それは、君が生まれてきたのは僕と君のママが愛を分かち合ったからだと。
君の真実はきっとそこにあると思うよ。

 だから、いつか君が大人になって心から恋をして、そして愛を囁きあう相手が出来たら
きっと答えが見つかるのではないかな。僕もそうであったように君のママとの間に、
愛しているという事実だけが、ただ真実としてそこに存在していたように、
君にもそんな人が現れたときにきっと分かると思うよ。
僕に教えてあげられるのはこれくらいしかないけれど。

 君には君の答えがあるはずなんだ。パパにはそれが上手く説明できなくて
君に何も教えてあげられないけれども、きっとそこに君の求める答えがあるという
アドバイスは出来るから。

 だけどごめんね。僕には君に教えてあげられることが少なすぎて。
でもね、ひとつだけ分かることは、君が生きている理由はきっと未来にあるということ。
人は、難解な問いを持って生まれてくるから、どれだけ年齢の離れた人に君の疑問を
ぶつけてもきっと誰も答えてくれない。
 
 だから自分で納得できる答えを君は探していくんだ。
それはきっととても辛いことかもしれないけれど、その中で出会う人々や身の回りで起きる
出来事がきっと君の疑問のヒントになるから、君はその疑問を忘れないように
生きていかなければならないんだ。

 そう、僕には君に疑問に答えられるほど立派な大人になれていないけれど、少し先に君より
早く生まれた人間として、君に教えてあげられる事は、人はその素朴な疑問に一生を費やして
しまうということ。でも、それを探していける人生はとても幸福だということ。

 だから、よく覚えておいて欲しいんだ。
君が素朴に疑問に思ったことを、僕に投げかけた難解な問いを。
いつまでも、心に残しておいて欲しいんだ。それが、人というものだから。

 それが答えに成り得るのだから。
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2010-12-19 : 短編集 : コメント : 6 : トラックバック : 0 :
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非公開コメント

あなたのことを考えていて、雨の降っていることも気づかなかった。
洗濯物を半分干してしまってから、細かい雨に気づいた。
・・・こんな思いで、どれだけの日々をすごしたのだろう・・。

お天気は容易に、人の心を塗り替えてくれるけれど、
急に明るくかわっていく空模様や、冷たい霙が雪に変わっていく時間の経過をわすれたまま、自分がばらばらにならないように、
涙の両手にうけとめた、腕の中の暖かい命だけを、ゆすり続けてきたのでしょう・・・。

あなたを愛して、あなたを父親にして、この世を去っていった人。
noriさんは、両手に落ちてきた命を抱きしめて、空を仰ぐ。

そして、歌うんだ。
あなたは、四六時中歌っている。
その場所にいて、いつでも歌っている。
歌を忘れた人たちは、
そんなあなたに憧れるけれど

歌わなくてはいられないから、今日も歌を歌う。

私の息子は、10歳になったとき、生きていることに気づいた。
「おかあさん。人はいつか死ぬの?怖い怖い怖い・・。どんなになっても、生きていて、僕のことを慰めて・・」と言って震えながら泣いた。
真っ赤に燃える命の塊をおそるおそる抱きしめて、「大丈夫だよ。人は、明日も昨日も生きれない。今だけ、今日だけど生きたらいいんだよ。」
と話した。

noriさんのお嬢さんは、とっても幸せな人だと思う。
愛は移ろいで行くけれど、混じりけのない一色の愛の中から生まれた人。
一人いてくれればいいんだ。
彼女を心のそこから抱きとめる人が。
あなたのような人が父親であることが、私はうらやましい。
生きるために、今日も歌を歌い続けるあなたのような人が、父親であることが・・・。

あなたが歌うから、私も歌おうと思う。
あなたお嬢さんも、歌いだす。

あなたのしらない、うつくしい旋律をもった歌を・・。
2010-12-20 11:35 : さおる。 URL : 編集
事実は、ひとつで、ママがいないという事実は
既に娘さんは解っているのかもしれませんね。

たぶん、まだ言葉が上手く使えず、その後に
どうして私はここにいるの?という質問があるのかな。

死、ということを説明するというよりも、
ママがどれだけあなたが生まれてくることを幸せに思っていたかを
そのまま伝えてあげるだけでいいのかもしれませんね。

言葉を知らない分、伝えようとしている一生懸命な姿から、
伝えたいことを感じ取ってくれるような気がします。

それは、子供も大人も関係ないことかもしれませんね。
私自身、言葉では伝え合えないものを出来る限り
感じ取りたいと思う最近です。
伝える事、伝えられる事の大切さが沁みてくるお話でした。
ありがとうございました。

2010-12-20 12:37 : Hiro URL : 編集
フィクションだよね?
一人称で語っているから「えっ!」と思ったけど創作だよね。
それぞれの人生において与えられた「生」への解は、数学の方程式みたく1つじゃない。
毎年1つずつ見いだすかも知れないし、一生かかっても分からず生を終えてしまうかも知れない。
もともと人生には解なんてないのかも知れない。
でも子どもに対してだけは少なくとも無償の愛を注ぐべきで、それは自分がどんなに辛くて血の涙を流そうとも成し遂げなければならないことだと思う。それによって親から子へ孫へと愛のバトンが渡されていくのだと思う。
2010-12-20 16:36 : 右近 URL : 編集
さおるさんへ
 さおるさん、コメントにご訪問誠にありがとうございます☆☆☆
素敵なコメントを頂いて涙が出そうになりました。
実は、さおるさんの「裸婦」の絵の記事を拝読させて
頂いたのですが、あまりに涙がでそうでコメントが
出来ませんでした。
 今度はしっかりコメントさせて頂きます☆☆☆

 僕のお嫁さんになる人が幸福であるかは
僕には分かりませんが、でも、ただその人がいれば
それでいいんです。だから、互いが楽しくなるように
尊重し合って自分が自分でいられるように、深く深く
愛することが出来たらと思っています。

 そして子どもが出来て、自分が与えられた感情を
その子にも伝えて、役目が終わります。

 そして老人になったとき、縁側かテラスで、前者なら日本茶を
後者なら紅茶でも、のんびりと飲みたいと思います。
詩でも歌いながら、のんびりと有限な時間を一緒に穏やかに
過ごしていきたいと思うんです。
 そのために、生きているのかもしれません。

 僕のお嫁さんになる人が幸福で、その子どももまた
幸福だと仰って頂けたことが大変に嬉しいです☆☆☆
さおるさん、本当にありがとうございます。さおるさんの
お子さんに仰った言葉も、大変心にしみこんできました。

 僕はしっかりと今日を生きられているだろうか?と
自問自答をしました。何度も何度も繰り返し読ませて
頂きました。
 本当に素敵な言葉を頂戴して、嬉しくてたまりません。

 あと、やはり、さおるさんはノルウェーの森のReikoさんみたいです。
僕が受け取っている雰囲気はそんな雰囲気です。温かく優しく強いけれど
繊細な人だと感じています。

 本当にいつもありがとうございます☆☆☆
ご訪問にコメント誠にありがとうございます☆☆☆
また、遊びに来て下さい☆☆☆楽しみにお待ち致しております☆☆☆
2010-12-20 19:55 : NORI URL : 編集
Hiroさんへ
 Hiroさん、ご訪問にコメント誠にありがとうございます☆☆☆
そうですね、このお話の女の子は、きっと分かっているのでしょうね。
「ママがいないのに、あたしはどうしてここにいるの」ということ
かもしれませんね。
 本能的にパパとママが結びつかなければ、自分が生まれないという
ことを知っているのかもしれません。だから、ママがいないのに
「あたしが存在している」という意味が分からなかったのかも
しれませんね。

 上手に出来ないのなら一生懸命な姿を。
そこから感じてくれること、自分も感じることというのは
本当に仰られる通りだと感じます。

 僕もHiroさんと同じくそんな人になりたいと
感じます☆☆☆素敵なコメントをいつも誠にありがとう
ございます☆☆☆

 また、遊びに来て下さい☆☆☆楽しみにお待ち致しております☆☆☆
2010-12-20 19:59 : NORI URL : 編集
右近さんへ
 右近さん、ご訪問にコメント誠にありがとうございます☆☆☆
フィクションです。
 僕の子どもがいてもおかしくない年齢ではありますが
それでも、まだ子どもをという風にはなかなか考えられ
ないのですが、これは僕が8年お付き合いした女性が
6歳年上だったものですから、自分がしっかりと弁護士になって
経済力をもつまでを考えたら、どうしても彼女は高齢出産に
ならざる得ませんでした。

 もしかしたら分娩で、彼女が亡くなるとも限りません。
それを不安に思ったとき、自分だったらどのようにしてあげる
だろうかと考えて書いたものです。
 以前、この記事をリメイクして書いた短編を載せました。
でも、実は今回のものがオリジナルです。

 無償の愛を注ぐべきなのでしょうね。
僕は何とも言えない部分ではあるのですが、もしかしたら
生まれただけで、生まれてきてくれただけで貰っているの
かもしれません。それを、子どもに注ぎ込んでいるだけ
なのかもしれません。

 子どもが、この世界に生まれて来てくれただけで
満たされてしまうのかもしれません。
 それを子どもに注ぐのかな、とも若輩者ながら
感じています。

 コメントにご訪問誠にありがとうございます☆☆☆
生意気言ってすみません。でも、また遊びに来て下さい☆☆☆
楽しみにお待ち致しております☆☆☆
2010-12-20 20:39 : NORI URL : 編集
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