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夜が明ける前に

 こんな寒い日の、しかも深夜に君は空を眺めていた。
繁華街の小さな公園でブランコに座って星を眺めていた。
 「こんな繁華街の公園では、空を見上げても星屑さえも笑わなくて
そして月の存在さえも希薄で寂しい街だね」と君はよく言っていた。

 いつも、辛いことがあると君はこのブランコに座って空を眺めていた。
そのさびれた公園と君の格好は不釣合いだった。
 華やかなドレスを纏った君が寂れた公園のブランコに座って
空を見上げているというのはどこか違和感があった。

 君は夜の世界では有名で、でも気まぐれで黒服も困っていた。
けれどその世界で有名な君はまるで女王のようで、僕は君のしなやかな
強さに惹かれていた。そして、その繊細な部分も見えていたから。
しかしながら、僕には君の世界観を理解することまでは出来なかった。

 それは、ピカソの絵を見てすごいとは思うけれど、その背景に何が
あるのか分からないという類の感情で、目で見える君の姿以外を
僕は認識できなかった。君の心の動きは僕の認識出来る範囲を
遥かに超越して、手の届かない場所にあるからなのだろう。

 だから、実は君は気まぐれではないのかもしれないとも
感じるのだ。君には君だけのルールがあってそのルールに従って
生きているだけなのかもしれない。けれど、そのルールに従って
強く生きていこうと思うと、衝突がどうしても生まれてしまうから
君は夜の世界でも気まぐれな女王に見えるのかもしれない。

 僕が君の事を知るきっかけになったのは、自分で起業した後のことだった。
どうしてもクライアント獲得のために夜の街を回ることが多くなった。
その営業先のクラブの新人の女の子が君だった。
 
 君のいるクラブに行くたびに、そして接客をしてもらう度に
君の評判は夜の世界に広がっていた。そして、瞬く間にNo1という
座についたのだ。この不景気と言われる時期に珍しいことで夜の世界は
君の登場に沸いていた。それは、丁度僕が起業して会社を興してから1年が
経過し、僕自身も楽しみとして飲みにいけるようになった時だった。


1
 僕は君の横に開いているブランコに座った。  
君は相変わらず空を見上げていた。目元はきらきらと
ネオンの明かりで、色々な色で輝いていた。そこに涙が
溜まっているからだ。それを、こぼさないようにと、君は
空を見上げていたことに僕は横に座ってから気がついた。

「アオイちゃん、大丈夫かい」と僕は話かけた。
「うん。大丈夫」と君は言った。

「ねえ、朝居さん。この街の月も星も可哀想だよ。こんな人工の
光なんかよりずっと綺麗なのに、この街では認識もされないなんて」
と君は本当に悲しそうにそう言った。
「本当にそうだね。でもアオイちゃんはこの世界ではNo1で
星屑より輝いているじゃない」と僕は言った。

「うん。でも、あたしはそんなこと望んでなかったよ。ただね、
あたしは自分の人生に文句を付けられたくなかったの。だから
誰もが文句を言えなくなるくらいになるしか方法がなかったの。
こんな地位なんて、幻想みたいなもの。夜の世界のNo1なんて
後々何の役にも立たないよ。だけど星は輝き続けるし、月もあの空で
笑い続けるの。あたしは自分がいる世界が誰のためになんのために
あるのか理解出来ないんだ。でも自分を見失いたくない。迷っている
ことに文句を言われたくないと思ったから、ここまで頑張ったの」と
君は夜空を見上げたまま、君は淡々と話した。

 夜の世界でたったそれだけの想いでNo1になれるほど
生易しい世界ではないことを僕だって知っていた。だから、もっと
他の何かがあるのではないかと僕は感じていた。そう、頑張って
No1になれる世界ではないのだ。どれだけ頑張っても、何も掴めない
女の子がたくさんいる残酷な世界なのだ。その中で瞬く間にNo1の座に
つく女の子がどれだけの数いるのだろうか。そんなものは数えるくらいに
しか存在していない。その中の一人が、横のブランコに座っている君だなんて
僕には信じられなかった。でも、それは事実で、君はNo1なのだ。

 「そういえば、はじめてのお客も指名してくれたのも朝居さんだった」と
君は思い出したかのように、それを懐かしむように言った。

「そうだったね、アオイちゃんが新人の時、僕は起業したばかりで
営業に奔走していたんだ。仕事の繋がりを持つために繁華街でお金を
使っていたときにアオイちゃんに会ったんだ」と僕も一年前が少し
懐かしい気分になった。


2 
「この公園で泣いているところを見られたのも朝居さんだった。
お店で揉めて、限界で飛び出してこの公園で泣いていたとき朝居さんが
あたしを見つけてくれたんだよね」と君は言った。
  
「ああ。そうだったね。僕も毎日辛くて夜の世界に営業でお酒を飲んで
お金を落とす作業の後に、仕事の話に繋げることが辛くて凹んで歩いて
いたときにこの公園でアオイちゃんが泣いていたんだ」随分昔の事を
話すような口調で僕達は会話を楽しんだ。

 いつの間にか君は僕の顔を見て話していた。
もう瞳に涙は溜まっていなかった。本当に楽しそうに昔話を
するように、「たくさんのことがあったね」と話していた。
まるで、天使のような微笑だった。こんな風に君は笑うんだと
はじめて君の笑顔を見たような気がした。いつもはお店の中の
仕事のつくりものの笑顔で、公園にいるときは大抵泣いていたから、
君の本当の笑顔を見たのはこれが初めての様な気がした。


3
 「朝居さんありがとう。あたし、もう辞めるよ」と君はブランコから
立って夜空を見上げてそう言った。明るい声でそう言った。
「やめるって店を」と僕は間抜けな質問をした。
「それ以外にやめることって何があるの」と君は振り向いて
微笑んだ。迷いがなくなったのか、何かが吹っ切れたのか今までに
見たことのない笑顔だった。本当の君の笑顔がこれなんだと思った。

 そして君は僕の手を引っ張って、一台タクシーを捕まえて
「ほら、乗って」と言って僕を詰め込んで、その横に君は座った。
「ねえ、運転手さん、星が綺麗に見える場所に行って。どんな遠くてもいいから。
どれだけお金がかかってもいいから」

 「おねえさん、何かいいことがあったのかい」と随分年配のタクシーの
運転手は穏やかに言った。
 「うん。あたし良い事があったんだ」と君はタクシーの運転手に
にこやかに返事をして「だから、星が綺麗に見えるところまで行って」と
君は明るくそう言った。僕は、何がどうなっているのかよく理解できなかった。

 タクシーの運転手は「おねえさん、いちばん綺麗な星が見える場所まで
いくよ。少し遠いけど」と言ってアクセルを踏んだ。
「うん、お願いね。運転手さん。夜が明けちゃうから急いで」と君は
明るく屈託無く迷いなくそう言った。    
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2010-11-27 : 短編集 : コメント : 7 : トラックバック : 0 :
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非公開コメント

ドラマティックな展開ですね。
いつもそばにいる人って必要ですね。
それに気がついたのかも。
愛情も同時に。
2010-11-27 00:02 : 美雨 URL : 編集
NORIさんてお呼びすればいいのかな?いつも2人称で話していたようで、やっぱりちゃんとお名前を書くべきかなと思い直しました。

わたしもね、寂しくなると夜中、公園のブランコに揺られるの。固くなってた心がふわふわと解き放たれるようで…
人ってさぁ、誰でも独自の世界観や人生観を持ってるよ。それに従って生きてるよ。なんにも持たない、考えないってほうが不思議だよ。

NORIさんが見てる星や月を私も見てる。この宇宙の神秘、たまらなく素敵だと思う。  
2010-11-27 09:18 : さらら。。 URL : 編集
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2010-11-27 09:59 : : 編集
美雨さんへ
 美雨さん、ご訪問にコメント誠に
ありがとうございます☆☆☆

 そうですね、いつもそばにいる人
なかなか気づかないものです。
 ふとした瞬間に何か気づいたのでしょうか。

 この物語の二人が美雨さんの心の中で
幸福な物語を紡いでくれたらと思います。

 ご訪問にコメント誠にありがとうございます。
また、遊びに来てください。
 楽しみにお待ち致しております☆☆☆
2010-11-27 16:24 : NORI URL : 編集
さらら。。さんへ
 さらら。。さん、ご訪問にコメント誠にありがとう
ございます☆☆☆
 呼び方は好きにしてもらえればと思います。
ニックネームで呼ぼうにもNORIがHNなのでこれ以上
何かしようがないということで、皆さんきっとNORIと
読んで下さっているのだと思います。

 さらら。。さんも公園で揺られるのですね。
深夜の公園って良いところですよね。昼間ももちろん
良いのですが、僕は深夜の公園が好きです。人のいない
公園が好きということかもしれません。

 そうですね、誰でも独自の人生観、世界観を持って生きているの
だと思います。何も持たない人なんて存在していないと思います。
けれど迷いながらでも、自我を通そうとする、というのはすごく
難しいことで、強い精神力が必要だと思い、その葛藤と自分という
存在の迷い、しかしそれを確立させようとする迷いのような感情を
描きたくて、このような物語の女の子を出しました。

 さらら。。さんが仰るとおり、地球のどこから見ても同じ空で
月も星も皆同じものを見つめているのですね。どんな辛いことが
あって星を眺めても、空を眺めても、それは皆同じなのですね。
当たり前のことと言われるとその通りなのですが、それが
どれほどに素敵なことでしょうか。

 本当の幸福というのは、それに気づいていくことなのかも
しれません。

 さらら。。さん、ご訪問にコメント誠にありがとうございます。
また遊びに来てください。
 楽しみにお待ち致しております☆☆☆
2010-11-27 16:38 : NORI URL : 編集
NORIさん今晩は
今は違いますが 若い頃(勤めていた頃とかお店をやっていた頃)
夜の世界の方とはよくお話をしてました
お客ではなくて 業者なので 当時は 色んなお話を聞く事ができました(まぁ お客としていった時なのですが)
彼女達の理由や不満 夢など とにかく皆が皆懸命に生きていて やはり競争や足の引っ張り合いなど 実にさまざまな悩みとともに頑張っているとの内容が 大半だったと記憶してます

このお話を読みまして ふと そんな昔の事をお思い出せて 少し懐かしくなりましたので♪
   いちごはニガテ
2010-11-27 20:00 : いちごはニガテ URL : 編集
いち二さんへ
 いち二さん、ご訪問にコメント誠にありがとうございます☆☆☆
そうですよね、いち二さんは確かお酒屋さんでしたね。
夜の世界にも勿論お酒を卸しにいきますから当然そういう
お話を聞く機会が多いですよね。

 夜の世界の方々は、本当に肝がすわっていらっしゃる中に
人の最も醜い部分、最も辛い部分を目の当たりにすることが
多い職業なので、本当にお客として行った時の優しさが
他のサービス業とは、その深さが違うと感じます。

 僕もふらふらと繁華街を歩く機会もございまして
その風景を見るのですが、皆懸命に生きているというのと
同時にたくましさを感じたりします。
 そのたくましさ見習わなければと思ったりするのです。

 いち二さん、ご訪問にコメント誠にありがとう
ございました☆☆☆
 また遊びに来てください☆☆☆
楽しみにお待ち致しております☆☆☆
2010-11-27 23:25 : NORI URL : 編集
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