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職場でのセクハラ 2(学術ブロマガ)

3・職場におけるセクシュアル・ハラスメントと旧男女雇用機会均等法21条及び指針
今日ではセクシュアル・ハラスメントは上述した判例から使用者責任が認められることから
分かるように、使用者つまり企業は職場でおこるセクシュアル・ハラスメントの防止・対応を正
しくしなければ、思わぬ損害をだしてしまうことになる。さらには、違法などとは言わないまでも、
職場内でおこるセクシュアル・ハラスメントが従業員の職務遂行の意識などの低下も考えられ
る。職場におけるセクシュアル・ハラスメントというのは、日常のささいなことから、人格権の
侵害や刑法上の構成要件に該当するものまで様々で、企業の相談窓口も対応に手を焼い
ているというのが実情であろう。

平成11年4月1日に施行された旧男女雇用機会均等法21条「職場におけるセクシュアル
・ハラスメントを防止するための事業主の雇用管理上の配慮義務」として、指針では①職場
におけるセクシュアル・ハラスメントは許さないという事業主の方針の明確化、②苦情・相談
への対応のための窓口の明確化と、苦情相談への適切且つ柔軟な対応、③職場における
セクシュアル・ハラスメントが生じた場合の迅速かつ適切な対応、の以上三項目が、厚生労
働大臣の指針として定められた。しかし、その後も相談件数は増えているのである。東京都
の労働相談情報センターに寄せられたセクシュアル・ハラスメントの労働相談件数も平成
13年度1132件、14年度1287件、15年度1369件と、21条及び指針が定められたのにも
関わらず相談は増えているのである(23)。
ところで、この相談件数の増加を見ると、15年度に至っては施行されて4年経過している
ので相談件数が減る、つまりはセクシュアル・ハラスメントの問題が減少していくのが望ま
しいが、表面的な数だけで評価してはならない。21条が施行されたときMMMA事件もあり、
その時代背景としてはセクシュアル・ハラスメントが法律問題として取上げられはじめ問題
意識も高まっており法律関係者、日本の女性団体などにも大きな影響をもち、MMMAが三菱
の子会社であったこともあり企業の意識に変革を起こし、セクシュアル・ハラスメントの深刻
さを多くの人が認めたことに意味があったと言える(24)。そこに、セクシュアル・ハラスメン
トの訴訟で使用者責任(民715条)が認められた多くの判例が蓄積し、さらに裁判におい
て使用者責任の免責として、21条及び指針の内容が実行されているのかも少なからず使
用者責任の免責に影響を与えると考えられるので(25)企業のリスクマネジメントとしても
セクシュアル・ハラスメントの防止・対策・対応が注目されるようになったのである。

a)改正男女雇用機会均等法11条とその実行性(改正ポイント)
19年4月1日施行この改正男女雇用機会均等法では旧男女雇用機会均等法の片面性の
払拭が大きな変革の一つである。すなわち、「女性差別禁止」から男女問わず差別を許
さない「性差別禁止法」として変革したという点である(26)

改正のポイントとしては、調停などの紛争解決援助の対象にセクシュアル・ハラスメント
を追加、是正指導に応じない場合の企業名の公表にセクシュアル・ハラスメントが追加さ
れた(27)。さらに改正男女雇用機会均等法33条には罰則が設けられ、その実効性が高
まったのである(28)。11条では、「事業主は職場において行われる性的な言動に対する
その雇用する労働者の対応により、当該労働者の就業環境が害されることのないよう、
当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用
管理上必要な措置を講じなければならない」と規定され旧男女雇用機会均等法21条より
、さらに踏み込んだものになっている。つまりセクハラの防止対策を講ずること、また
、問題が起きたときには迅速に事後の対策、被害者、加害者への対応をすることが義務付
けられたのである(29)。

 指針において、「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関し雇用管理上講
ずべき措置の内容(30)」として①職場におけるセクシュアル・ハラスメントの内容及び職場
におけるセクシュアル・ハラスメントがあってはならない旨の方針を明確化し、管理・監督者
を含む労働者に周知啓発すること、②職場におけるセクシュアル・ハラスメントに係る性的
な言動を行った者については、厳正に対処する旨の方針及び対処の内容を就業規則その
他の職場における服務規律を定めた文書に規定し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発
すること、③相談への対応の窓口をあらかじめ定めること、など、企業の講ずべき措置を
細かく規定し、セクシュアル・ハラスメントに対しての対応を示している。

 何度も述べているが、この11条及び指針自体は私法上の拘束力を持つものではないとされ
ているが、今日判例でも認められた、使用者責任、職場の環境配慮義務、さらには今回の改正
ポイントから、考えるとこの指針に沿った措置をとることが、重要であると言える(31)。この改正
でより実行性が確保されたはずである。企業がよりセクシュアル・ハラスメントの予防・解決を
意識するものであると思われる。そして、セクシュアル・ハラスメントが発生した際、被害者が
相談しやすい環境が整えば、企業自体それに対応し問題の解決ができるであろう。まさに、
それが被害者の雇用保護とも言えると思うのである。

4被害者の雇用保護
 被害者の雇用保護というとセクシュアル・ハラスメントが起こった場合においてどのように
解雇無効を導き出すか、というよう直球で考えてしまいがちだが、実際のところ裁判をして
解雇無効の確定判決が出た場合に、その解雇無効判決を得た被害者は職場で何事もな
かったように就業できるのであろうか。答えはNoではないであろうか。中には、「大丈夫」
という人も、いるのかもしれないが、どちらかと言えばそのような人は稀であろう。大抵の
場合は退職してしまうといのが実情である。今まで給料をもらって生活していた者が退職を
したら、どうなるかはすぐに分かるだろう。生活が立ち行かなくなるのである。

しかもセクシュアル・ハラスメントの被害にあっての退職であるから尚更納得がいかないで
あろう。では、そのような時、裁判で訴えるしか手が無いのであろうか。セクシュアル・ハラス
メントの訴訟においては「直接の加害者」さらに「使用者」を相手にして訴訟を提起することが
多い。しかも裁判はかなりの時間が要することもあるし、実際仕事をしない期間の生活はど
うなるのか、など被害者なのにも関わらず問題はそう簡単に解決するようには出来ていな
いというのが実際のところではないであろうか。確かに判例法浬によって使用者責任(民715)
殆ど肯定しており、今日では企業の責任は任無過失責任に近い状態となっているとは言え
、実際のところ資金力から考えても被害者は苦しい立場であるのには変わりないのである。
さらには日本の労働紛争の特徴として訴訟で白黒つけるのをはっきりさせることを好まない
という傾向が強いこともあり、こと性に関係するセクシュアル・ハラスメントはさらにその被害
を深刻にしていくのである(106)。

 しかしながら、人格権侵害などで違法なセクシュアル・ハラスメントになるまでには、日常
の小さなセクシュアル・ハラスメントであって、職場にそれを許さない、又は社内研修プログ
ラムなどでの啓発によってセクシュアル・ハラスメントは問題であるという意識が高まって
いれば、又は相談窓口に相談しやすい環境ならば、セクシュアル・ハラスメントが違法性を含
むような大きなものになる可能性が大幅に減るであろう。今日では企業責任は大きく、判例で
はセクシュアル・ハラスメントの使用者責任(民715条)を認めており、さらには男女雇用機会
均等法11条及び指針「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関し雇用管理上
講ずべき措置の内容(30)」として具体化し細かく規定している。その事からもさらに企業の
果たすべき責任が明確になったといえる。さらに、この改正の効果として裁判において、指針に
沿った措置が取られていなければ、その使用者責任(民715)さらには均等法違反を課され
ること、さらにはセクシュアル・ハラスメントの対策の是正指導に応じない場合の企業名の公表
という制裁などから企業のセクシュアル・ハラスメント防止に対する取組みが高まることであ
ろうと予想できる。

 ところで21世紀職業財団が平成15年に行った「企業におけるセクシュアル・ハラスメン
ト防止の取組みについて」のアンケートで従業員が1000人以上の企業の相談窓口設置率は
89・5%である。さらに過去一年の間の社員からの相談があったという企業は18・6%、
なかったという企業が54%、不明が24・7%であり、又、何故相談がなかったのかという
理由のアンケートにおいては、「相談窓口設置の周知が不十分だから」が22%、
「相談しづらい雰囲気が原因」が11・3%。窓口業務の研修が行われているのは55%、
人事労務担当が兼任している企業が60・2%、専門の担当者をおいているのは21・7%、
各職場の管理職が対応という企業が17・1%という結果であった(注105)。

 企業の窓口では、このような結果であるにも関わらず、セクシュアル・ハラスメント関係
の雇用均等室への年々相談が増えているというのは、企業相談窓口の状況に反して矛盾
であるとしかいいようがない。企業の相談窓口が従業員にとって頼りがいのあるものにな
れば、職場でのセクシュアル・ハラスメントは「相手方の意に反する不快な性的な言動」と
いう比較的小さなうちに企業内で対処できるであろう。男女雇用機会均等法11条の指針
には就業規則・服務規程などにセクシュアル・ハラスメントに対する方針を明確に定める
ことも盛り込まれている。その基準に従って、セクシュアル・ハラスメントにした従業員の
懲戒解雇、若しくは、必要な措置として配転などを行いセクシュアル・ハラスメントの被害
者の事後措置をとるべきであろう。

 結局のところ、セクシュアル・ハラスメントの予防それ自体が、広い意味で雇用保護
になると結論づけたい。「被害者の雇用保護」と考えるとき、セクシュアル・ハラスメント
が起こったその企業内で、小さなうちに処理できる体制づくりの強化、徹底したセクシ
ュアル・ハラスメント防止の社内研修、それを促すような法律、それが企業、従業員
の意識を高め、さらにそれがセクシュアル・ハラスメントの被害が深刻にならない
うちに対応できるようになり、広い意味で「被害者の雇用保護」となるのだと思わ
ずにはいられないのである。
 またそれ以外の部分で対応していく事が事態も難しい問題である以上、真の
雇用保護を導き出すために、各個人のセクシュアル・ハラスメントの認識が高まる
ことが法システムとしての円滑さを生み、広義な「雇用保護」となると解することが
出来るし、それがこの問題の根本解決に於いて最も有効であると解するのである。


                                          以上

(23)産業労働局雇用就業部労働環境課
「セクシュアル・ハラスメント労働相談の状況」 平成16年

(24)金子雅臣「日本的セクシュアル・ハラスメントの現状概観」
人事スタッフのための職場のセクシュアル・ハラスメント防止マニュアル 
経営書院 1998年2月25日第1刷18頁

(25)水町勇一郎「労働法」有斐閣 2007年9月30日初版第一刷発行 213頁

(26)青木孝「セクシュアル・ハラスメントをしないさせないための防止マニュアル」
小学館 2007年6月20日 初版第1刷発行 20頁

(27)愛知県 産業労働部 労政担当局 労働福祉課「男女雇用機会均等法」
http://www.pref.aichi.jp/rodofukushi/horei/kintouho.html 
2007年10月14日閲覧

(28)小畑史子「男女雇用機会均等法の改正と今後の課題」法律時報79巻3号 35頁

(29)青木隆「セクシュアル・ハラスメントをしない、させないための防止マニュアル」
小学館 2007年6月20日初版第1刷発行 27頁

(30)平成18年厚生労働省告示第615号

(31)水谷英夫「日本におけるセクシュアル・ハラスメント裁判例の検討」
日本労働法学会誌94号 1999年10月 69頁

(32)水町勇一郎「労働法」有斐閣 
2007年9月30日初版第1刷発行 233頁

(33)青木孝「セクシュアル・ハラスメントをしないさせないための防止マニュアル」
小学館 2007年6月20日 初版第1刷発行 20頁


【参考文献】
・山田省三・角田邦重「労働法2(保護法)」 2006年1月16日10刷発行

・山崎文夫「改訂版セクシュアル・ハラスメントの法理~セクシュアル・
ハラスメントに関するフランス・イギリス・アメリカ・日本の比較法的検討」 
労働法令 平成16年10月5日発行 

・水町勇一郎「労働法」有斐閣 2007年9月30日初版第1刷発行 

・アンソニー・ギデンズ「社会学第4版」而立書房 
2006年9月25日第4版第3刷発行

・角田邦重・毛塚勝利「新現代労働法入門(第3版)」
法律文化社 2006年4月30日 第3版第2刷発行

・水谷英夫「セクシュアル・ハラスメントの実態と法理~タブーから権利へ」
信山社 初版第1刷 2001年3月20日発行

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2011-05-31 : セクハラの基礎知識(法律ブロマガ) : コメント : 0 : トラックバック : 0 :
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